ちっぽけな幸せ

「年始に、家族で墓参りに行ったんだけどさ。」

2008年1月5日 新年初ライブの朝、Jazzドリーム長島へ向かう車の中で、かわやんが話し始めた。
 運転手はまっちゃん。助手席にかわやん。そして後ろの座席でシートを倒した僕は、ぐで~としながら長良川を見ていた。

「墓参りに行くのを親父がめんどくさがって一人で留守番してるっていうから俺が運転して、お袋と兄弟乗せてでかけたのよ。で、帰りに夕食を食べて帰ったら、親父がふてくされちゃってさぁ。」

 かわやんの親父さんの様子が目に浮かぶようで、まっちゃんも僕もゲラゲラ笑った。
「なんか、うちらが帰ってくるのを待っていたみたいなのね。で、みんなで外食してきちゃったからなんか機嫌悪くてね。」

 僕が、「普通墓参りって親父さんが筆頭に行くもんじゃないの?」って言ったら
「いや、母方の墓参りだったから・・・」
「ぶっ!!、そしたらなおさら行かなならんやん」とまっちゃん
「うん、まあそうなんだけどね。。。 で、その後、みんなでカラオケに行こうって話しになって、出かける準備してたんだけど、まーだ機嫌直らなくてさ、 後から行くから先に行っててくれ、 なんていうのよ。」

 僕は、かわやんと一緒に活動していて、たまにかわやんもそんなふてくされ方をする時のことを思い出し、ニヤニヤしながら聞いていた。

「んで、みんな盛り上がってお袋も酒飲みながら上機嫌で、終わりの時間50分くらい前になってようやく親父がとぼとぼ来たんだけど、結局1曲くらいしか歌えなくてさ。 なおさら機嫌悪くなっちゃってさ。」
「あ~わかるわかる。引くに引けなくなっちゃって最後まで間が悪い人。」 信号を曲がりながらまっちゃんが笑いながら合いの手を入れる。

「帰ってからあんまりふてくされて酒飲んでるから、夜中まで台所で一緒に他愛ない話しながら酒に付き合って飲んでたんだ。」

今日の天気は快晴。
他愛ない話で盛り上がりながら、三叉路を乗せた平成8年式のエスティマ 通称サロンカーは長良川沿いの道を快適に走ってゆく。

「まあ、帰ったらまたちょっと機嫌直しに居酒屋でも一緒に飲みに行こうと思うんだけどね。 なんかこうゆうところが、我ながらすごい似てるなって感じて、俺って親父の子なんだなぁって改めて思ったよ。」

 それからみんなそれぞれ、年末年始どんな過ごし方をしたか話しながら、新年の初顔合わせはサロンカーから始まった。



しばらくすると話題も尽きて、まっちゃんは運転しながらBGMで流しているミスターチルドレンの新曲を鼻歌で歌いだした。
かわやんの話しを聞いてなんだかほほえましく、うらやましく思う僕。

僕が精神的に大人になったときには、兄貴も親父も他界した後だったから、そんな他愛ない出来事もなんだかうらやましいなぁって今になって思う。

今手にしているちっぽけな幸せって見えているようで見えていないことがあるんだなと思う。
たとえ大きな夢をかなえたって、現実に日常に存在しているのはちっぽけな幸せの積み重ねだったりする。

うまくいくことのほうが少ない日々の生活の中で、やわらかな陽だまりはすぐ手の届くところにあるのに、忙しさのせいにしたりお金がないせいにしたりして、いつのまにか取りこぼしてしまうことがある。

【君がくれたもの】を歌うようになって、もう300回以上のステージで欠かさずに演奏してきたけど、歌いながら自分自身に今を大切にするってことを言い聞かせてきた。
きっと、こんなかわやんのエピソードが【君がくれたもの】の真髄だったりするんじゃないかなって思った。


僕は失くしてから気づくことが多かったから、今度キャンペーンから帰ったら、たまには母親を誘って飲みにでも行こうかな。
そういえば墓参りにもいかなきゃ。
そんで今日のかわやんの話でもしてやろう。



080105xxx

Back