スタンドバイミー 後編


スタンドバイミーのゴーディーやクリス達が死体探しの冒険に出た頃、またはトムソーヤーが筏で無人島の冒険をしていた頃、僕らも僕らなりのやり方で、冒険を探し遊び、学んでいた。

中学生になってから、多少の夜遊びも許されるようになって、それでも7時8時頃までの短い時間を 自由探しに明け暮れていた。
家庭の事情もあり、一人で家出することもよくあった。
原因はもう忘れちゃったけど、初めて家出をしたときは、市内で一番大きい富士見公園に隠れるくらいしかできなかった。
陸上トラックの脇にある石灰倉庫の屋上に登って、寒さに震えながら夜にくるまった。
体が冷え切って、苛立ちや悲しみよりも寒さが体にしみてきた頃、姉や妹の呼び声が聞こえてきた。

家に帰って、親に小言を言われて なおさら反発心が強まった気がする。
「どうせ気を引きたいから家出なんかするんでしょう!?」 なんて事を言われて、ああもう二度と帰ってくるもんか。と思った記憶がある。

そりゃそうだよ 家出にしても、自殺未遂にしても、自分のことをどれだけ愛してくれているのかしりたいんだ。
心が荒れているときに言葉なんていらなくて、ただ心から心配してくれたり、親身になってくれるだけでいいのに、なかなか親子ってのはうまくいかないもんなんだな。

「あんた えらそうなことを言ったって、どうせしばらくしたら家に帰ってきて飯を食うんでしょ!?」なんて
追い討ちをかけるような言葉も、売り言葉に買い言葉、
お前はもう死ねよ と言われているに等しいことを親は なかなか気づいてくれない。


まぁ、そんなこともありつつ ひねくれながらも正常に僕は中学3年生の受験シーズンを迎えたわけ。

当時は幼馴染のヒデの家が居心地が良くて、よく入り浸ってカセットテープを聴きながら絵を描いたりしていた。
おやっさんの仕事の都合でマンションの一室が、まるごとヒデの部屋になって憧れの独り暮らし状態。
どこから持ってきたのか、友達がボクシングのミットやグローブなんかを持ち込んで、完全にたまり場と化していた。

いよいよ受験生の夏休みともなれば、塾だ家庭教師だと勉強シーズン真っ盛りな辛い季節なはずなんだけど、
僕は志望高校ってものに何の興味も無くって、今の学力で適当に受けて適当に受かれる学校でいいやって思ってた。
だから、本当は塾に通う必要も、勉強への焦りもなんも無かったんだけど、そんなことあまり大声で言える雰囲気でもないからしょうがなく、団地の一室にある丸山塾(だったかな?)に通ったりもした。

そんな夏休みもあっという間に始業式の足音が近づいてくる.
中学生最後の夏休み。 なんか新しい発見や冒険、経験や出会いをものすごく求めていた僕は、いてもたってもいられなくなってきてしまった。

親には受験勉強の合宿を友達のうちでやるから・・・といって荷物をまとめ、ありがちなアリバイ工作でヒデの家に泊まっている事にしてもらった。
とりあえずなんだか知らんが海に行くぞ!!と思い立ち、東京から東海道線に乗り込み熱海だか、伊東だったか、伊豆の海に足を運んだ。

家出経験や夜遊び(朝遊び?)経験の豊富な僕でも、やっぱり一人っきりでの野宿は初めてのこと。
日中しこたま海で泳いだあと、コンビニで弁当を買って食べているときに、ふと素に戻って不安になったと思えば、海辺で複数のカップルがはしゃぎながら花火をする姿に妙にあこがれたりだとか、独りっきりでも全然平気じゃん!って意味も無く興奮したりとか、いろんな感情があふれでた記憶がある。

初日は確か、海辺で夜を明かした記憶があって、それでもやっぱり睡眠があまり取れなかった気がする。
翌日明るくなってからすぐに電車に乗り込み、電車で爆睡しながらいけるところまで移動。
たどり着いたのは沼津市だったかな。電車を降りてバス停で目の前にあったバスに乗り込んだ。
もちろん行き先なんて無い。

初めから乗っていたお客さんはどんどん降りて、新しいお客さんを乗せてバスは走る。
始発から乗って終点まで来たとき、「折り返しますよ」と、車掌さんが声をかけて来た。
当時は社交性のかけらも無い中学生で、おまけに家出少年のように大きなボストンバックをもっている。
たぶん車掌さんも不審に思ったんだろうけど、あまりに僕が無口なんでそのまま折り返し、もとの出発駅まで帰ってきた。
降りるときに払った料金は確か片道分で一番遠くまで行った距離lくらいだった気がするから、まんまと50%Offだな。

それから市内を散策して、川べりの橋の下に荷物の隠し場所を発見。
ボストンバックをそこに隠すと、手ぶらで街中へと出かけた。
取られてもいいような荷物だったけど、今思えばずいぶん大胆な行動だったと思う。
今なら迷わずコインロッカーに放り込むだろうしね。


夜が来て、今日の寝床を探しながら歩いていると、いたるところに蝉の死骸が落っこちている。
避けながら歩いていたつもりだったんだけど、すぐ足元に転がっていたやつを蹴っ飛ばしてしまったのか、または足音で蘇生したのか突然「ビビビビビビビビビビビビビビビ」と飛び上がって体当たりしてきたときは、マジで心臓が止まるほど驚いたなぁ。


まるでホームレスのように橋の下で野宿をし、翌日は市内の土産物屋をのぞいて、ヒデや仲間への土産を買い、電車を気楽に乗り継いで帰ってきた。

ヒデのマンションに帰ると仲間が勉強やら、マンガやらボクシングやらをしてたむろしてる。
ちょっとした冒険話を聞かせてお土産をみんなで食って、疲れた体で家に帰りついた。


たかだかニ泊三日だか(三泊だったか?)程度の小冒険だったんだけど、やっぱ自室にこもるとどっと疲れが出てきて、風呂に入ってすぐに布団にもぐりこんだ気がするなぁ。


今の時代はデジタルな世の中であり、異常な犯罪の多発する時代であり、なかなか一昔前のように体を張って生きることがむづかしくなってきているのは事実だと思うけど、身に付けた知識は経験しないと自分のものには、なかなかなってくれないものだから、家出をしろとは言わないけれど、いろんな経験をしてもらいたいと思うな。



070815xxx

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